Physio Kimura Academy
各論 臨床推論 シリーズ:修士の臨床記録 #5

【修士の臨床記録 Vol.5】「軟骨がすり減っているから痛い」と信じて思考停止していた私。〜膝しか見ない罪〜

2026/2/13

この記事で分かること

読了時間:約 5 分

  • 「変形=痛み」は誤り。見るべきは今加わっているメカニカルストレス
  • 膝は中間関節。股関節と足関節がサボれば膝がねじれる
  • パテラセッティング一辺倒の思考停止と、関節内圧上昇のリスク

はじめに:「変形」は変えられないが、「痛み」は変えられる

「変形性膝関節症(膝OA)ですね。軟骨がすり減っています」 「歳のせいだから、うまく付き合っていくしかないですね」

医師からこう告げられた患者さんに対し、新人の頃の私は、ただひたすら膝の内側(痛い場所)をマッサージし、大腿四頭筋の筋トレ(パテラセッティング)を指導するだけのマシーンと化していました。

「変形しているから痛いんだ。変形は治せないから、痛みも完全には取れないだろう」心のどこかでそう諦めていました。

しかし、それは間違いでした。「変形(構造の破綻)」と「痛み(機能の破綻)」はイコールではありません。

今日は、膝という「被害者」ばかりを慰めて、膝をいじめ抜いている「真犯人」を見逃していた、10年前の私の未熟な記録を公開します。

【公開】10年前の生々しい臨床リフレクション(膝OA編)

これは、しゃがみ込みからの立ち上がりで右膝の痛みを訴える、50代女性(変形性膝関節症 初期〜進行期)を担当した際の、指導官との振り返り記録です。

当時の私は、痛みの原因が「関節の中(半月板や軟骨)」にあるのか、「表面(靭帯や脂肪体)」にあるのか、ということばかりに気を取られ、膝関節の局所的な徒手療法(モビライゼーション)のことしか頭にありませんでした。

【2016.10.11 振り返り記録(右変形性膝関節症)】

私(当時): 「深くしゃがめるので、関節の適合性(FT関節)には問題ないと思ったんですが、圧痛もあるし、やっぱり関節包内運動が悪いのかもしれません。内側への滑り(Medial Glide)を出せば良くなるかと思って、モビライゼーションをしようと思うんですが…」

指導官: 「うん、関節を動かしたいのは分かった。で、『なぜ』そこが痛くなってるの?」

私(当時): 「え? …いや、変形性膝関節症ですし、荷重でストレスがかかって炎症が…」

指導官: 「(遮って)あのね、さっきの彼女のスクワット動作、見た? お尻(股関節)が全然使えてなくて、膝が内に入りながら(Knee-in)、足首が潰れて(回内)たよね。上下の関節がサボったしわ寄せを、全部その『膝の内側』で受け止めてる状態だよ。君がやろうとしているそれは、雨漏りしている床を一生懸命拭いているだけで、屋根(アライメント)を直そうとしてないよね。」

私(当時): 「…………(ぐうの音も出ない)」

今の私が、この会話を「翻訳」するとこうなります

当時の私(心の声):

「膝が痛いんだから、膝の中に原因があるはずだ。関節の動きを良くする手技を使えば、玄人っぽくてカッコいいし、治るはずだ…」

指導官(心の声):

「木を見て森を見ず。膝は『中間関節』だぞ。股関節と足関節という二つの親分に挟まれた『中間管理職』が、板挟みで悲鳴を上げているだけだ。なぜその環境(運動連鎖)を見ない?」

今の私ならこう添削する(赤ペン先生)

「雨漏りの床を拭いているだけ」。この指摘は、当時の私の臨床そのものでした。

1. 膝は「被害者」である

膝関節は、股関節と足関節の中間に位置する関節です。構造上、回旋の自由度が低く、「ねじれ」のストレスに非常に弱いという特徴があります。

  • 股関節が硬くて回らなければ、膝がねじれます
  • 足首が不安定で潰れれば、膝がねじれます

膝の痛み(炎症・変形)の多くは、上下の関節の機能不全によって引き起こされた「被害」の結果に過ぎません。

2. 「変形」ではなく「ストレス」を診ろ

レントゲン上の変形は、**過去の履歴書(結果)**です。しかし、今日痛い理由は、今まさに加わっているメカニカルストレスです。

当時の私は「変形している場所」を触ることばかり考えていました。見るべきは、「動作の中で、どこに無理な力がかかっているか(運動連鎖のエラー)」です。

Knee-in & Toe-out などの不良動作を修正せずに膝を揉むのは、火事の現場で火元(運動エラー)を消さずに、煙(痛み)を手で払っているようなものです。

3. 「パテラセッティング」の思考停止

とりあえず大腿四頭筋を鍛えれば良い、というのも危険な思考停止です。

もし痛みの原因が、過剰な筋収縮による圧縮ストレスだとしたら? ガンガン筋トレをさせることで、かえって関節内圧を高め、寿命を縮めている可能性すらあります。

結論:膝を治したければ、膝から離れろ

膝OAの患者さんに対し、膝しか見ない治療を続けることは、ある種の「罪」だと今の私は思います。それは、根本原因を放置し、変形を進行させる手助けをしてしまう可能性があるからです。

「膝が泣いている理由は、足元にあるかもしれないし、お尻にあるかもしれない」

その視点(運動連鎖)を持てた時、あなたの臨床は「対症療法」から「根本治療」へと変わります。

📚 参考文献

  • Powers CM. (2010). “The influence of abnormal hip mechanics on knee injury: a biomechanical perspective”. J Orthop Sports Phys Ther. 膝が被害者であり、股関節(特にお尻の筋肉)の機能不全がいかに膝へのメカニカルストレス(Knee-in など)を生み出すかを、バイオメカニクスの視点から解説した超重要論文。
  • Neumann DA. (2012). “筋骨格系のキネシオロジー”. 医歯薬出版. 関節の構造と運動連鎖を学ぶための世界的バイブル。膝関節が「中間関節」としてどのように捻れのストレスを受けやすい構造か論理的に理解できる。
  • Sahrmann SA. (2005). “運動機能障害症候群のマネジメント”. 医歯薬出版. 「変形」ではなく「運動のエラー」が痛みを引き起こすというパラダイムシフトを与えてくれる一冊。大腿四頭筋を鍛えるだけの思考停止から抜け出すヒント。